読者の皆様は“ボランティア”活動を行ったことがあるだろうか? アメリカ(以下,米国)の多くの高校では身近にあるさまざまなボランティアを必須科目として学生に経験させる.社会全体としてボランティアが根付いているようだ.本稿ではUJAに所属する筆者らの米国での経験を簡単に紹介する.
(水田)筆者は環境問題に興味があったため,米国環境保護庁(EPA)の職員として改訂された大気汚染防止法の普及と排気量調査をしたことがある.米国と日本との環境問題への取り組みの違いを経験できたことや職員の考えに触れることができたのは,将来の職業を考えるうえで非常に参考になった. 当初,就労ビザすらもたない留学生だったので,他国政府でのインターンは不可能だと言われ,門前払いをされたこともあったが,スポンサーを得ることで採用された.アプローチや発想を変えることが道を切り開いた体験となった.さまざまな経験をするなかで学問追及への意欲が高まり,海外大学院進学を決意した.上記の経験は大学院受験や奨学金申請の場面で,具体的かつ論理的に自身の動機を説明するために非常に役に立った.またEPAで働いた上司からいただいた推薦書は,どの書類審査においても大きな印象を残せたようだ.結果として第1志望の米国大学院で博士課程前・後期ともに給付型奨学金付きで進学できた.もちろん,ボランティアはキャリアアップのために行うべきものではない.大学時代に体験した住み込み農業ボランティアや震災復興活動,今になって思うとキャリアのことなど考えないで行ったことも結果的に自分の“視野”や“動機”となり,一流の専門家としてより大きな社会貢献をしたいという気持ちにつながっている.
(河野)米国で筆者が指導する学生のなかにはStudent Clinic(SC)でボランティアを行う学生が多い.これは医学生が中心になって保険をもたない人々に対して無償で医療を施すクリニックのことである(皮肉なことに彼らを救うはずのオバマケアが成立した後もSCを訪れる患者は全く減っていない).インディアナ大学のSCでは医学生も医師も無給,無単位で従事しているのだが,アンケートによると約400人いる学生のうち,40%以上が年に1度以上ここで医療に従事するという.熱心に活動する理由を教えてもらったので紹介したい.SCでは週末のみ1〜2年次の学生は主に問診などにあたり,3〜4年次の学生は医師とともに実際に診察や治療計画,投薬など(日本でいう診療参加型のトレーニング)を行う.早くから診療経験を得られること,臨床研究にも関与できること,そして純粋に人を笑顔にする喜びが大きなメリットだという.社会貢献をしているという実感が医師になるためのトレーニングを続ける強いモチベーションになるのだ.各種奨学金や希望の診療科への道も広がる.SCには地域社会と大学を結びつける役割もあり,財団の資金や個人寄付によって支えられている.他人事のように述べたが,日本ではあまりボランティアに参加するタイプではなかった筆者も米国で生活するうちに毎月のようにさまざまなボランティア活動に組込まれていて,それが1つの楽しみになっている.
(鈴木)米国での学部,院,教員生活を経て思うのは,学生のボランティア経験の豊富さと多様性だ.筆者自身,前述されたSCや,病院・薬局でのボランティアの他にも,日本語の通訳・翻訳,国際学科でのゲストレクチャー,小・中・高での文化交流イベント,ニカラグアでのウミガメ保護活動など,さまざまなボランティアに参加する機会に恵まれた.専門分野に関連する活動は,キャリアに反映しやすい.ただ,自身の分野外の経験からも,得られるものは多いのではないだろうか.筆者の場合,イベントやレクチャー関係のものは,よいパブリックスピーキングの練習になったと思える.ウミガメ保護に関しては,ニカラグアへの渡航費をファンドレイジングするために,地元の企業から寄付金を募るスキルが求められた.実際に行ってみたら保護活動は夜間で,日中はマングローブを1,000本植えるという新たな活動が付加され,現地の環境に柔軟に適応する必要性も学んだ.近年,ハリケーン・マリアの被害後,薬剤師としてプエルトリコに派遣されたが,「現地はどういう状況かわからない」と言われたなかで医療を提供するのに,この柔軟性というのは,大いに役立ったように思う.教員として,今の学生にアドバイスを送るなら,キャリアに直結するボランティアはもちろん,関係しないようなボランティア活動も選択肢として考えて欲しい.振り返れば,「何かすれば,何か得られるものがあった」様に思えるからである.
いかがだっただろうか.ボランティアに参加して多彩な価値観に触れることは,あなたの研究や人生にも幅をもたらしてくれることだろう.ボランティアや留学等に関しての質問はE-mail()で受け付けている.UJAが出版した「研究留学のすゝめ」(羊土社)も参考に薦める.読者のますます豊かなボランティア,研究生活を心から応援したい.