病院に足を運ぶことになった動機のことを,医者の世界では主訴とよんでいる.誰がこのような難解な造語をつくり出したのか,いまとなっては知る由もないが,医療における主訴とは痛みとほぼ同義であるとみてよい.数値化することのできない唯一のvital signである痛みは,女心に似てたいへん移ろいやすく,たとえどんなに激しく感じられようとも一定時間の後に雲散霧消してしまうことがあるが,そのメカニズムは不明である.さて,われわれの痛みを,全身にくまなく分布する抹消痛覚神経の研究だけでわかった気になれると信じているサイエンティストは少数派である.
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