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UJAだより

ネットワーキングイベントを活用して研究の「資本」を蓄えよう

UJA 川上聡経(ハーバード大学),早野元詞(慶應義塾大学)

資本主義社会で合理的な研究スタイルとは?

業革命以降の経済学は,利益を追求するための社会システムを資本主義とよび,資本は一般的に「カネ」や「モノ」を意味する.資本がなければ,開発や挑戦など将来への投資ができないため,利益や負債で資本を増やす.この資本主義の観点より研究を考えると,研究者にとり「カネ」=研究するための人員や消耗品を確保する助成金であり,「モノ」=研究設備や研究スペースである.

若手研究者は,「カネ」「モノ」とはまた別の,個人的な知識や経験などの「人的資本」を重要視する傾向にあるように思われる.筆頭著者でNature,Cell,Scienceに論文を出すことのみが明るい将来につながると信じて,研究室に閉じこもり貴重な『「若手」といわれる期間』を終える人もいるのではなかろうか.しかし,例えば独立して研究室を主宰するには,推薦状,グラント,申請書の書き方のノウハウなどの情報収集が欠かせない.また,ハイレベルの研究実績をあげるために重要な,おもしろく(時にハイリスクな)新しい領域(ホワイトスペース)は,一人でラボに閉じこもっていては発見することすら難しいと私は考える.

social capitalとネットワーキングイベント

さらにまた別の資本の話をする.「社会関係資本(social capital)」という言葉をご存知だろうか.これは,「信頼」「規範」「ネットワーク」などの言葉で言い換えられる,人や社会とのつながりを意味する概念で,日本人に最も足りない資本の一つであると言われている.social capitalの形成に必須な要素として「ネットワーキング」があり,これは「人・もの・集団・組織などを水平的に結び付けること」と捉えられる.研究の現場にこの考えをもち込むと,例えば学会は,研究情報を交換する場としてだけではなく,social capitalを形成するためのネットワーキングの場(ネットワーキングイベント)としても多いに活用できる.学会に限らず,ミートアップ,勉強会,研究室の飲み会に至るまで,social capitalを得る貴重なネットワーキングイベントと捉えると,将来の自分へ投資するチャンスでもあり,参加するメリットがある.

ネットワーキングイベントの種類

研究者が交流するネットワーキングイベントにはさまざまな形態がある.特に海外ではそれらが研究生活のなかで日常語として自然に使われていることに気づく.大学院生,ポスドク,研究室主宰者が交代で研究内容を発表し議論する「フロアトーク」,セミナー講演者と昼食を食べながら気軽にサイエンスやキャリアについて話す「ランチョン」,メンタルヘルスやキャリアをサポートするセミナー,イノベーションエコシステム関係者が,セミナーやピッチ(売り込み)を聞き,ビールを飲みながら交流するボストンの「Venture Cafe」,研究者,医師,起業家,投資家などが即席チームをつくりイノベーションのアイデアとビジネスプランを提案する「ハッカソン」など,枚挙にいとまがない.海外のイベントの特徴は,簡単に参加でき,無料で飲食(ときにはアルコールも)でき,参加者が年齢や立場の垣根を越えて気軽に話し合えることである.これも,ネットワーキングイベントが日常化していることの恩恵だろう.

理想のネットワーキングイベントを実現するには

図1

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研究者のネットワーキングイベントが求められていることは,近年の大型研究プロジェクトやファンドの狙いにも表れている.例えばHuman Frontier Science Program(HFSP)は,過去30年間に28名のノーベル賞研究者を輩出している,日本が提言して開始された国際ファンドであるが,異なる大陸・異分野の研究者が,挑戦的な研究を提案することを推奨しており,次世代のブレークスルーを生み出すための「分野」という概念に囚われない(反分野的な)思想が求められている.反分野的な思想の養成には,さまざまな職種や考え方とのネットワーキングにより形成されるsocial capitalを与えるネットワーキングイベントが効果的だろう.

UJAが実施したアンケート〔回答者数114名(2020年4月実施)〕によると,「理想のネットワーキングイベント」の形態として,①異分野の研究者が,講演とディスカッションを通して影響を与え合い学び合うことができる「講演会型」のイベントと,②異分野・異業種の学生・研究者・専門家が,年齢と立場の垣根を越え,家族ぐるみで飲食しながら気軽に楽しく有益な情報を交換し,人脈をつくることができる「パーティー型」のイベントがあげられた.「日本に足りないイベント」としては,異分野・異業種の人たちが,年齢と立場の垣根を越えて気軽に議論し,コラボレーションやイノベーションを生み出すイベントとの回答だった.回答者の多くがネットワーキングイベントに「興味がある」〔93名(82%)〕,「必要だと思う」〔98名(86%)〕と答えたにもかかわらず,「興味があり必要だと思う」が「参加したことがない」と答えた人が〔23名(20%)〕いた(図3).この数字の乖離には,回答者本人の意欲に帰する原因と,理想的なイベントが不足している実情とがあるだろう.参加者側としては,これと思ったイベントに飛び込んで開催者とともに盛り上げていく心がけが必要だ.理想的なイベントを増やすためには,social capitalを高めるネットワーキングのメリットの社会的認識を高め,研究者に時間を与え,若手研究者が中心となり自由に企画運営し,理想のネットワーキングイベントを開催できるような環境づくりが必要と考える.

2020年7月号掲載

本記事の掲載号

実験医学 2020年7月号 Vol.38 No.11
環境因子と発がん
喫煙・肥満・アスベストによるがん発生機構からがんの“予防”に挑む

戸塚ゆ加里/企画
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