眠りについて

質問8 なぜ夢を見るのですか?

解 説

夢に関する科学は睡眠医学のなかでも,多くの著名な研究者が挑みながらも,まだ未解明なまま残された領域です.最初に夢を科学的に考えたのは精神分析学を創始したフロイトです.フロイトは私たちの見る夢には無意識が反映され,夢は願望充足に伴って生じると考え,夢に関して自由に連想させることで,患者の無意識に近づけると考えました.

フロイト理論による精神分析学が花盛りだった1960年代に,フロイトの理論に真っ向から反対する夢の学説を米国の睡眠生理学者ホブソンが提唱しました.つまり,ホブソンは動物実験などの結果をもとに,夢はレム睡眠中に脳幹内部からランダムに発せられる神経信号が大脳皮質に到達して,このときの活性化によって発生した感覚心像がつながって合成されたものにすぎず,夢にはフロイトの考えた心理学的な意味は存在しないとしました.しかし,最近になって,ホブソンも視覚心像が夢となるためには連想や記憶の過程が関与するとして,フロイトの深層心理を一部認めるようになっています.なお,この最近のホブソンの学説は,日本の睡眠研究の先駆者である大熊輝夫氏の提唱した,夢はある偶発的な視覚映像から出発する連想ストーリーと考える「感覚映像―自由連想仮説」とかなり近いと言えます.

もう1人,DNAの二重らせん構造の発見でノーベル生理医学賞を受賞したクリックも,「われわれは忘れるために夢を見る」という独自の夢の理論を打ち立てています.クリックによると,ヒトの脳は複雑に発達した神経回路網で成り立っていて,そこで情報が処理されるが,覚醒中にとり込んだ情報のすべてが有用とは限りません.そこで,脳は不要な記憶をとり除いて負担を軽くするとともに,神経回路網のなかにある混乱した情報や誤った情報を消去する作業を必要としており,その消去の過程で,記憶から消去された情報が素材となって表れたのが夢というわけです.

神経学者でもあるフロイトは,後世,夢理論など自分の精神分析学は科学的に実証されるはずと考えていたのですが,フロイトの死後70年以上経った今でも,脳科学はフロイトの理論の実証も否定もできていません.確かに夢のメカニズムが科学的に解明されれば,心理学と脳科学が一気につながって理解されるはずです.多くの有名な研究者が挑んでも,なおも解き明かせないのが夢の魅力ですが,いつの時代に解き明かされるのでしょうか?

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内科医のための不眠診療はじめの一歩

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小川朝生,谷口充孝/編

定価 3,500円+税, 2013年2月発行

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プロフィール

谷口 充孝(Mitsutaka Taniguchi)
大阪回生病院睡眠医療センター
香坂 雅子(Masako Kohsaka)
石金病院
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