この記事は有料記事です
(残り約9,300文字)
-
【スマホで読める実験医学】第9回 論文の書き方(中編)
550円
本連載では,著者(谷内江)が短い(しかしながら現代における)アカデミアでの研究生活の中で見つけてきた豊かに生きるための交渉術,論文・グラント執筆,プレゼン,ジョブハンティングにおける各種テクニックを共有する.
本連載のテキストは,実験医学編集部が著者(谷内江)へのインタビューを元に構成したものを,著者が加筆・編集して確定する形式を採用している.編集部ではインタビューでの雰囲気や感じたニュアンスを優先してテキストを作成しており,その結果,傲慢と思われたり誤解を招きかねない表現で著者も看過している部分があるかもしれないため,ご了承いただきたい.
私は論文を書く(あるいは学生の論文を見る)のが早くない.丁寧に精密を期した仕事をしようとするからである(しすぎるきらいがあることも反省している).なかなか納得できる論文は書けない.ようやく最近になって,自分たちが発表する論文から綺麗な音が鳴ると感じるようになった.完成した論文を読んでいると音楽を聞いているような気分になる.他人の論文からも音がする.オーケストラだったり,ショパンのピアノのようなものもあれば,文化祭の軽音部,ロックやジャズのような雰囲気を感じるものもある.よく知った研究チームからの論文にはVaundyや芥川也寸志の音楽のように個人を感じることもある.不協和音が鳴っていることもあれば,荒削りでも壮大な高校生ブラスバンドのような論文もある.
音楽に基本があるように,論文にも基本がある.研究内容を最も的確に伝えるための基本である.連載の中で何度も伝えようとしているように基本は重要である.論文を書くにあたっては前編で説明したダイヤモンド構造がある.人間の可能性は無限であるが,完全な仕事はできない.したがって,科学,アート,音楽を含めたさまざまなコミュニケーションはその基本を守る必要がある.どれだけクリエイティブでありたくても,基本を無視した仕事が他人に伝わることはほとんどない.基本を知り,その構造を分解して理解できる力を身につけながら,他人がどういう仕事をするかも学び続けることで,はじめて自分の仕事が良いものになるのだと思う.そして,基本構造やその手段は歴史のなかでどんどん変わる.人はその時を生き,その時に何かを他人に伝えようとするが,その行動様式は人類の長い時間のうねりの中にある.バロック音楽の時代にVaundryが登場できたとしても受け入れられなかったかもしれない.長い歴史の中で,科学者達がつくり上げてきたnorm(規範・標準)をまず学び,その変化を感じることもおもしろいと思う.
この記事は有料記事です
(残り約9,300文字)
【スマホで読める実験医学】第9回 論文の書き方(中編)
550円