細菌は単細胞であるが,たとえモノクローナルな集団であったとしても,個々の細胞の遺伝子発現は非常に不均一である.細菌はランダムに亜集団に分化することが可能であり,これはさまざまな環境中で生存するためのベッドヘッジング(両賭け)戦略となっている.例えば,パーシスタンス(抗生物質耐性)やコンピテンシー(自然形質転換能)は,抗生物質による細菌感染症治療において大きな課題となっており,確率的に細菌集団中の一部の細胞において発現する.これらのレアな細胞分化の現象を解明するためには,バルクのトランスクリプトーム解析といった集団の“平均”を算出する方法では不十分である.現在までに,このような細菌の“個性”の解析には,蛍光顕微鏡やフローサイトメトリー法といった手法が主に用いられてきたが,これらでは限られた遺伝子セットのみの解析に留まる.
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