眠りについて

質問1 「寝ないとヒトは死ぬ」のは本当ですか?本当なら,どのくらい起き続けていると危険なのですか?

解 説

古くから,動物やヒトから睡眠を奪って生じた問題から睡眠の役割を見つけだそうと断眠実験が行われてきました.動物の断眠実験では動物を眠らせないようにすると食事の量は増えるのに体重は減少し,体温が低下し体毛が抜けおちて皮膚に潰瘍などを生じて数週間で死んでしまいました1,2)

それではヒトでも睡眠をとらないと死んでしまうのでしょうか? 1959年に小児麻痺救済の募金集めのためにトリップというDJが200時間にわたって一切の睡眠をとらずにニューヨークのタイムズスクエアのガラスのブースから放送を続けました.さらに1965年にはカリフォルニアの17歳の高校生のガードナーがこの世界記録に挑戦し,264時間12分の断眠の新記録を樹立しました.この挑戦で2名とも死んでいませんし,大きな身体的問題もありませんでしたが,実は4日目ころから集中力の低下や幻覚や猜疑心など精神的な変調がみられています.また,この2名の世界記録の挑戦者ほど長時間ではありませんが,ラボで行われた研究でも断眠3~4日目になると被験者に錯覚や幻覚が生じたことが報告されています1,3).つまり,2晩以上,完全な徹夜を続けると,身体的に大きな問題はなくても精神的にはかなり危険な状態に陥ります.なお,現在,ギネスブックは健康に対する影響が大きいことから断眠の世界記録を認めていません.「寝ないとヒトは死ぬ」のかどうかに結論はつけられませんが,食事と同じで睡眠をとらないことは非常に危険なことは間違いありません.

参考文献

  1. 大熊輝雄 : 睡眠の必要性と断眠. 「睡眠の臨床」,pp.83-87,医学書院,1977 絶版ですが,睡眠や脳波の研究者として著名な故大熊輝雄先生の名著です.この本のなかで1966年に時実らによって世界に先駆けて行われた断眠実験が紹介されていますが,学会報告のみだったのか文献としては掲載されていません.ヒトの断眠実験はその危険性が明らかになった現在は行われておらず,また,当時,100時間にわたってポリグラフィを行うのは恐ろしく労力を要したはずで,貴重な研究が論文として読むことができないのは残念です.
  2. Everson, C. A., et al.:Sleep deprivation in the rat : Ⅲ. Total sleep deprivation. sleep, 12 :13-21, 1989
  3. Babkoff, H., et al.:Perceptual distortions and hallucinations reported during the course of sleep deprivation. Percept Mot Skills, 68 : 787-798, 1989

本連載の著者による単行本が発行いたしました!

内科医のための不眠診療はじめの一歩

内科医のための不眠診療はじめの一歩

小川朝生,谷口充孝/編

定価 3,500円+税, 2013年2月発行

詳細 購入

プロフィール

谷口 充孝(Mitsutaka Taniguchi)
大阪回生病院睡眠医療センター
香坂 雅子(Masako Kohsaka)
石金病院
  • [SHARE]
  • Send to Facebook
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Prev質問1Next

TOP

おすすめ書籍
  • 9784758124164
  • 9784758124089
  • 9784758127110
  • 9784758123594
  • 9784758124058
  • 9784758110808
  • 9784758127011
  • 9784758116992
  • 9784758124034
  • 9784758123587