若手研究者にとって,ラボの運営サポートは重要な役割の1つである.なかでも「指導や指示」はラボ活動での多くの比重を占め,多くの大学院生がはじめに直面する課題でもある.博士課程の学生やポスドクは,後輩のみならず,研究費で実験補助員を雇うこともあるが,彼らへの指示やモチベーションを保つマネジメントスキルは,若手研究者が良質な成果を出すための必須スキルといってもよいだろう.筆者(矢吹)は学部時代から今(博士課程)まで,のべ300人以上の後輩を指導してきたが,研究室という少人数体制のなかで後輩を息長く育て,成長を見守る経験は他にはない特別なものだと感じている.そこで本稿では,自身の経験から得られた後輩指導のハウツーを紹介する.
筆者が指導で大事にしていることは「ほめて伸ばす」,「自身の失敗を隠させない」,「怒らず叱る」ことだ.後輩指導に悩まれている皆さんには,まずは「身近な歳の近い先輩」として一緒に楽しみながら実験を行うことをお勧めする.本格的な指導を始める前に信頼関係を構築するため,加入後の数カ月間は,いい変化を定期的に伝え,円滑なコミュニケーションができる関係を築くことが大切である.特に,後輩をよそでほめることは信頼を得ることに効果がある.「先輩がほめていたよ」と他者から言われることで,普段のほめ言葉にぐっと説得力が増すためだ.また,知識が不十分な状態で失敗を隠すようになってしまうと,安全管理面でのリスクになる恐れがある.そのような事態を防ぐために,研究内容は十分わかるよう説明し,失敗談の共有やアイデア出しに後輩も参加してもらい,失敗を隠さず,互いに支え合って研究を進められる雰囲気作りを心がけている.このような行動で指導に説得力をつけて信頼感を得ることで,心理的安全を担保した状態で,本格的な指導への移行が可能になる.
本格的な指導が始まった後も帰属意識をもたせる目的で,忘年会や暑気払いといったラボ内の催しを行うのもよいだろう.
しかし研究を行っていくうえでは楽しいことばかりでなく,直接厳しいことを伝えなければならない場面もある.後輩ができた際には,「自分が研究面で譲れないこと」をしっかり決めておく必要がある.筆者の場合は時間を守ること.締め切りや期日が守れなければどんな良い話も逃す,ということは折に触れてしっかり伝えてきた.時にはラボに来ず進捗がない,日常の細かな準備をしないといった後輩にも遭遇するだろうが,問題行動が起こるにはそれなりの理由がある.そうした後輩ほどその背景をしっかり見つめながら,対話の時間を多くとるよう心がける必要がある.筆者は実際にラボに来られなくなった後輩が精神面での問題を抱えていたことを察知し,学生支援につなげた経験がある.こういった細かなフォローアップは忙しい教授や大学関係者には難しい場合もあり,じつは大学院生が頼りにされていたりもする.適切な指導は若手研究者自身が上長からの信頼を勝ち取るチャンスでもある.
近年ではコンプライアンスの遵守が強く求められ,行き過ぎた指導を行うと大学院生でも責任が課される場合がある.若手研究者といえど指導を行う際には相手への配慮が必要だ.また信頼関係の構築から,実際の指導に至るまで,粘り強さと真摯に向き合う力を要求される.若手研究者は将来的に指導的立場に至ることを考えれば,実験手技の理解度向上だけでなく,研究活動全体への俯瞰的な見方を養うことができる指導経験は,将来に向けて自身を強くしなやかに成長させてくれることは間違いない.だからこそ双方が成長できる関係を築きながら,楽しみつつ後輩を育ててみてはいかがだろうか.


