スマホで読める実験医学
公開中

研究と育児の両立を考える:研究を止めない工夫と環境づくり

服部祐季
名古屋大学大学院医学系研究科細胞生物学分野
10.18958/7947-00007-0006372-00

研究と育児の両立は,研究者にとって大きな課題の1つです.私自身も2人の子どもを育てており,その難しさと向き合いながら日々試行錯誤を重ねています.研究の世界では成果が求められ,実験・解析,論文執筆に加え,予算獲得,学生の教育など多くの業務があり,継続的な集中と時間確保が不可欠です.こうした研究活動と家庭の時間とのバランスをいかに調整するかについて常に模索しています.本稿では,私自身の経験を踏まえ,育児と研究の両立における難しさや工夫,さらに研究コミュニティに期待される環境整備について述べたいと思います.

子育てをしていると,特に子どもが小さい時期には,体調不良による急な呼び出しや休校など予期せぬ出来事によって予定していた仕事を思うように進められないこともあります.そのため,限られた時間のなかで優先順位を見極めながら,効率的に研究を進めることが重要になります.私が心がけていることの1つは,仕事の内容に応じて時間や場所を使い分けることです.実験や対面での議論が必要な業務は日中に集中的に行い,自宅でも進められる論文の読み込みや原稿執筆,データ整理などは,早朝や子どもが寝ている時間などを活用して進めています.また,思考を要する作業は起床後の頭がすっきりしている時間に行い,細切れの時間でも進められる作業は日中の隙間時間を活用するようにしています.さらに,研究をチームとして進める体制づくりも重要です.具体的には,オンラインツールを活用して場所にとらわれず議論を行い,研究の方針を確認しながらスケジュールを共有することで,研究を円滑に進められるようにしています.

一方,育児中の研究者にとって大きなハードルの1つが学会参加です.学会は研究成果を発表し議論を行う場であるだけでなく,新しい出会いや共同研究のきっかけを生む重要な機会でもあります.しかし,小さな子どもを育てながら出張を伴う学会に参加するには,子どもの預け先の確保や,帯同する場合の移動・宿泊の手配など多くの準備が必要になります.近年では,学会会場での託児サービスやオンライン・ハイブリッド形式の開催など,参加しやすさを高める取り組みも広がってきました.こうした取り組みは,子育て中の研究者が研究コミュニティとのつながりを維持するうえで重要な支えとなります.一方で,参加中の保育料や旅費負担,託児の定員や対象年齢の制限,学会や研究機関ごとのサポート体制の違いなど,利用のしやすさにはまだ課題が残されており,今後さらなる整備が望まれます.

また,研究機関における環境整備も重要です.柔軟な働き方への理解やオンライン会議の活用といった制度面に加え,日本ではまだ十分とは言えない施設内の授乳室や託児スペースの設置,保育施設の併設,駐車場の用意など,子育て中の研究者が安心して研究活動を続けられる環境づくりが求められます.こうした設備は日常の負担を減らし,研究と育児の両立を支える重要な基盤になると考えます.

研究活動において,キャリア形成の重要な時期と子育ての時期が重なりやすいのが現実です.だからこそ,個々の努力や工夫だけに依存するのではなく,コミュニティ全体として多様な状況にある研究者が研究活動を継続できる環境を整備することが大切であると感じます.私自身も現在進行形でこの課題に向き合っていますが,同じような状況にある研究者が孤立することなく,それぞれの形で研究を続けられる環境が少しずつ広がっていくことを願っています.