実験医学 2013年1月号 Vol.31 No.1

がんのheterogeneityーその解明と攻略への次なる一手

微小環境,がん幹細胞,ゲノム変異の統合的理解からがんの“不均一性”に挑む

  • 藤田恭之,佐谷秀行/企画
  • 2012年12月14日発行
  • B5判
  • 127ページ
  • ISBN 978-4-7581-0091-5
  • 定価:2,200円(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

がんは正常細胞の増殖プログラムに異常が生じたために発生する「細胞の病」であることを疑う研究者はいない.しかしがんの本質は,発生あるいは進展の過程でその姿を変えていくことであり,診断がついたときの腫瘍塊は,すでに異なった性質をもった細胞の集合体と化している.こうしたがん組織の不均一性(heterogeneity)は治療を困難にしている最大の障壁であり,heterogeneityが構築されるメカニズムを明らかにしない限り飛躍的に予後を改善する治療の開発は望めない.Heterogeneityという大きな壁に挑むためには,異なった視点でがんの研究を行う者が,その複雑性を直視し,情報を共有し,もてる技術を最大限に駆使して闘う姿勢が今まさに必要となっている.

がんの本質に迫る概念“不均一性”を総力特集.発生・進展の過程で姿を変え異なる細胞の集合体となったがんの弱点はどこにあるのか?ゲノム変異・がん幹細胞・微小環境など各領域からの最新理解と今後の展望を紹介.

目次

特集

がんのheterogeneity―その解明と攻略への次なる一手
微小環境,がん幹細胞,ゲノム変異の統合的理解からがんの“不均一性”に挑む
企画/藤田恭之,佐谷秀行
Heterogeneity:がん治療最大の障壁に迫る【藤田恭之/佐谷秀行】
がんは正常細胞の増殖プログラムに異常が生じたために発生する「細胞の病」であることを疑う研究者はいない.しかしがんの本質は,発生あるいは進展の過程でその姿を変えていくことであり,診断がついたときの腫瘍塊は,すでに異なった性質をもった細胞の集合体と化している.こうしたがん組織の不均一性(heterogeneity)は治療を困難にしている最大の障壁であり,heterogeneityが構築されるメカニズムを明らかにしない限り飛躍的に予後を改善する治療の開発は望めない.Heterogeneityという大きな壁に挑むためには,異なった視点でがんの研究を行う者が,その複雑性を直視し,情報を共有し,もてる技術を最大限に駆使して闘う姿勢が今まさに必要となっている.
病理からみたがんのheterogeneityとその源泉【柴田龍弘】
がんの発生・進展はゲノム異常の蓄積過程であり,ゲノム不安定性によってその集団は均一な集団からより複雑で多様な細胞集団へ姿を変えていく.病理像からうかがえるように,幹細胞性から惹起される階層性・微小環境変化への適応などのエピゲノム変化がさらに多様性・不均一性に寄与している.がんの分子的多様性は,情報伝達系のゆらぎや内在性プログラムが起点となり,ゲノム・エピゲノム変化によって遺伝的に継承され,時間の経過や治療などの環境変化に応じて動的に変化していく.こうしたがん多様性の分子機構を解明することで新たな治療法開発が期待される.
がんのheterogeneityと転移【谷内田真一】
膵臓がんは,がんのheterogeneityと転移の研究には理想的な研究対象である.原発巣と転移巣の遺伝子変異のシグネチャーを解析したところ,原発巣内には遺伝子変異の明らかなheterogeneityを認め,転移巣のクローンと類似した遺伝子変異のシグネチャーをもつクローンは原発巣にも存在することがわかった.すなわち,膵臓がんではゲノムの進化は原発巣でほぼ完成し,転移巣の間でみられる遺伝子変異のheterogeneityは,原発巣内でみられる遺伝子変異のheterogeneityに由来する.最近の他臓器がんの研究成果から,これらのheterogeneityやゲノムの進化はがん腫によって異なり,それらがそれぞれのがん腫の自然史を反映していることが明らかになりつつある.
Heterogeneityに潜むエピジェネティック変化【牛島俊和/竹島秀幸】
がんが多発する機構として,一見正常にみえる組織にすでに多くの遺伝子のエピジェネティック異常が蓄積しているepigenetic field cancerizationが重要である.Helicobacter pylori感染による胃炎など特定のタイプの炎症はDNAメチル化異常を強く誘発することが知られ,単球/マクロファージが重要とされる.がん組織でもさまざまなエピジェネティック変化によるがん細胞のheterogeneityが誘発され,上皮間葉転換やがん関連線維芽細胞の形成などを通じてがんの進展に関与する可能性がある.
CD44によって制御されるがん組織の不均一性【永野 修/佐谷秀行】
がん組織は一様の細胞で構成されているのではなく,性質の異なった細胞の集合体であることは疑う余地はない.がん細胞のこのような個性はさまざまな機序によって生み出され,一因的に考えることは難しい.しかし,がん幹細胞を頂点として,さまざまな分化度の細胞がつくられていくプロセスが,がん組織の不均一性を生む重要な原因の1つであると考えられる.本稿では,細胞表面分子CD44の特殊な選択的スプライスフォーム(CD44v)が,がん幹細胞とよばれる細胞の亜集団に多く発現しており,それが未分化ながん幹細胞とそこから派生する非がん幹細胞を機能的に区別する役割をもつことを述べたい.さらにその発現がヒストン修飾に基づくエピジェネティック制御を受けていることから,腫瘍細胞の不均一性は可逆的である可能性についても考察したい.
分子標的薬耐性からみた肺がんのheterogeneity【山田忠明/矢野聖二】
非小細胞肺がんは,近年,EGFRやALKなどのdriver oncogeneを標的とする新たな分子標的薬が臨床応用され,治療転換期を迎えている.しかしながら,薬剤耐性獲得後の最適な治療法の確立はこれまでにさまざまなアプローチが行われているものの満足しうる結果が得られていない.その要因の1つに,分子標的薬の耐性化にかかわるさまざまなheterogeneityの存在が考えられる.本稿では現在までに明らかにされた肺がんにおける薬剤耐性のheterogeneityについて概説する.今後,さらなる治療薬開発の発展と同時に,正確な耐性診断に向けた検査法の発展が期待される.
正常上皮細胞と変異細胞間で生じる細胞競合【梶田美穂子/藤田恭之】
がん発生の初期段階で,新たに生じた変異細胞と周囲の正常上皮細胞の境界で何が起こるのかについては現在のところほとんどわかっていない.哺乳類培養細胞系やin vivoモデルシステムを用いた最近の研究で,正常上皮細胞と変異細胞の細胞間でさまざまな相互作用が起こり,それぞれの細胞のシグナル伝達系や挙動に大きな影響を与えることが明らかになってきた.またその結果,多くの場合,変異細胞が正常細胞層から逸脱することもわかってきた.本稿では,このがん細胞をとりまく新たなheterogeneityに関する最近の知見を紹介する.
がんの多様性の数理【北野宏明】
がんの多様性が,創薬や治療戦略に大きな影響を及ぼすということは広く共有されている.本稿では,その背後にある数理を議論したい.特に,各々の患者のがん細胞における遺伝的多様性の動的な特性の理解は,治療戦略に決定的な影響を与える.つまり,多様性の背後に,ロバストネス・トレードオフや細胞集団のサブグループ構成の変化による進化的最適化など,がんを少しでも制御しようと考える場合に理解することが必須の原理・原則が隠れていると考えられるのである.

特別インタビュー

いま基礎医学研究力を高めるためにできること~MD研究者を育成し,強い研究チームをつくる【清水孝雄】

トピックス

カレントトピックス
ACE2のアミノ酸吸収制御による腸内環境の維持と腸炎の予防【橋本達夫/Josef M. Penninger】
リンパ節に代替臓器をつくる【小森淳二】
哺乳類概日転写制御機構とクロマチンランドスケープ【小池宣也】
免疫受容体CD300aはアポトーシス細胞と結合して肥満細胞を制御する【小田(中橋)ちぐさ/渋谷 彰】
定量生物学の展開【小林徹也】

連載

クローズアップ実験法
TALE nuclease (TALEN) を用いた培養細胞におけるゲノム編集【落合 博/佐久間哲史/松浦伸也/山本 卓】
Bench to Clinic ~研究室と明日の医療をつなぐパイオニアたちの挑戦
がんペプチドワクチンの開発 ~アカデミアからの挑戦【山田 亮/伊東恭悟】
Campus & Conference探訪記
温泉よりもアツいぜ! 次代を担うホープたち ~第13回がん若手研究者ワークショップ【清宮啓之】
ラボレポート ―独立編―
マンハッタンのサンクチュアリにて ―The Rockefeller University【船引宏則】
Opinion ―研究の現場から
研究と社会との橋渡しに向けて【宇田川侑子/関田啓佑/秋元優希】

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