日本病理学会は1911年,日本連合医学会での提案を契機として設立された,100年以上の歴史を有する学会である.その長い歴史のなかで,学術研究賞(旧:A演説),学術奨励賞,病理学研究新人賞など,若手病理医・病理学研究者が発表し成長する機会が段階的に整備されてきた.2026年に札幌で開催された第115回日本病理学会総会から開始されたUnder40(U40)企画も,この流れの延長線上に位置付けられる新たな試みである.私自身,日常診断や胃がんを中心とした病理学研究に取り組みながら,今回U40企画の運営にも携わった.
病理医を取り巻く環境は,この数十年で大きく変化した.かつて病理医の主たる活躍の場は大学の研究室であったが,50年以上前から病院へとその中心が移り1),生検・手術標本診断,病理解剖,分子標的治療にかかわる病理診断など臨床での役割は大きく拡大してきた.一方で,がんゲノム医療,空間オミクス解析,AIなど新たな技術が急速に発展し,研究環境やキャリアもますます多様化している.もはや1つのロールモデルだけでは若手病理医の将来像を描くことは難しい時代である.
こうした背景のもと,日本病理学会では2024年春頃から企画委員会を中心に前述のU40企画の具体的検討がはじまった.若手病理医・研究者が学会活動へ主体的に参画することは,広い意味で学会におけるダイバーシティを推進すると同時に,将来の学会運営を担う人材を育成する試みでもある.
第115回総会では,「病理学の現場から!若手が切り開く新しい道」と「病理医はなぜ研究する必要があるのか―学問の継承と基礎・臨床をつなぐ視点の価値」の2つの企画がUnder40アンビシャスワークショップとして開催された.前者では単独で病院の病理診断を担うキャリアである一人病理医をはじめ,開業,起業,教育,大学など多様なキャリアを若手の立場から共有し,後者では病理学研究を継続する意義を議論した.実際のワークショップでは世代や所属を超えた活発な議論が交わされ,若手が主体となる企画への関心の高さを実感した.
U40は若手が演者として発表する場であるだけではなく,若手自身が企画,演者選定,司会進行まで担うことで,「学会をつくる側」に立つ経験を得ることにも大きな意義がある.私自身,今回の企画を通じて,若手にとって最初の壁は研究テーマ以前に「学会へ参加する理由を見出すこと」にあると感じた.特に地方勤務では時間的・経済的制約もあり,学会参加そのものに一定のハードルが存在する.だからこそ,若手が自分事として参加したくなる企画や,同世代との横のつながりを生む場を設計することが重要になる.
病理学が健全に発展するためには,臨床医学からの信頼と支持を得ることが不可欠である1).一方で,その基盤となる研究活動を継続し,新しい知見を社会へ還元する使命も忘れてはならない.研究と診断は病理学の両輪であり,それを支える人材育成やキャリア形成もまた重要な基盤である.これはかつてがん研究会がん研究所の菅野晴夫先生の説いた『持続可能な近未来の病理』2)の実践例であると考えている.次回の第116回総会(横浜)ではU40はシンポジウムとして新たな一歩を踏み出す予定である.若手病理医が参加者としてだけではなく,企画し,議論し,学会を支える“学会のつくり手”という存在へ成長していくことを期待したい.
文献
1) 「日本病理学会50年史 上巻」(日本病理学会/編), 南山堂(1964年)
2) 「病理の百年を振り返って」(菅野晴夫), 第99回日本病理学会総会(2010)


