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実体験から紐解く,若手研究者に適した勉強スタイルの確立

稲本美森,河田紗弥
生化学若い研究者の会キュベット委員会
10.18958/8015-00007-0006655-00

研究者にとって「勉強」は,自身の研究に必要な情報を自ら見極めて収集し,研究計画に落とし込むとともに,分野の動向や社会的関心を俯瞰するために必要だ.しかし筆者は研究室に配属されたばかりの頃,勉強を「完璧に原著論文や専門書を読んで知識をつけなければならないもの」と考えていたため,続々と出版される原著論文の多さや難解な専門用語に追いつけなくなってしまった.また,新しい実験手法も習得しなければならなかったため,日々の実験との両立が困難であった.そんな筆者を見かねた研究室の先輩が,「最初からすべて完璧に理解しようとして動けないのは本末転倒だよ,まずは総説を読んでみよう.わからないことがあるのは前提で,僕やAIを頼ってもいいし,流し読みでもいいから」とアドバイスをくれたことをきっかけに,自身の勉強方法を模索することにした.筆者は「完璧をめざす勉強」ではなく,「全体像を把握し,必要に応じて深掘りする勉強」へと考え方を転換した.本稿では,その過程でたどり着いた勉強法を紹介したい.

分野の全体像をつかむため,まずは総説を読むことにした.主要な概念や未解決課題を把握するためだ.細部まで理解することよりも,分野内での自身の研究テーマの位置づけを掴むことを重視するのがポイントだ.次に,読んだ総説の参考文献から必要な原著論文を選んで読み,実験手法や結果,先行研究の限界を確認した.この段階では翻訳ツールや生成AIを補助的に用いて大意を把握し,重要な部分を選択して熟読すれば十分である.

その後は,既知のこと,未解決のこと,そして自身の考えを書き出して整理する癖をつけた.読むだけでは,自分の研究にどう結びつくか整理できないためである.これによって,自分の研究の軸を確認できるだけでなく,どのような知見が不足しているのかも明確になる.さらに,先行研究で用いられている実験手法やその限界点にも注目している.単に現象を観察するだけでなく,その背景にあるメカニズムをどのように検証しているのかを学ぶことで,自身の研究計画や実験デザインの改善につなげている.このように,まず全体像をつかみ,必要なところを深掘りする.その発想に変えてから,研究と勉強を両立できるようになった.

この方法は,学際的な視点を取り入れるための勉強にも有効だ.筆者は,手軽に情報を得られるfacebookやXなどのSNS を利用して情報を収集していた.そのなかで若手研究者と交流できる場に興味をもち,分野問わずにセミナーに参加するようになったことが他分野の概観を掴むことにつながった.その後は,前述の方法で掘り下げを行ったり,その分野をより深く理解するために若手研究者と議論を交わしたりした.他分野の研究者がもつ問題意識や,研究手法を知ることで,自身の研究を異なる視点から見直すきっかけにもなっている.

ここまで,筆者が実践している勉強方法について,その確立の過程を交えて紹介してきた.研究者は,自分の研究を突き詰めるための「深く潜る勉強」と,視野を広くもつための「全体を俯瞰する勉強」の両方が求められる.勉強を行いつつ,本業である研究遂行のために,実験や研究室ミーティング,申請書や論文の執筆を行わなければならない.すべてを自分でマネジメントする若手研究者にとって勉強の効率化は必須事項だ.筆者は勉強スタイルの確立を模索していくうちに,一報の論文に執着しすぎるよりも,全体像を把握し,必要に応じて深掘りする効率性こそが研究を前へ進める近道だと気が付くことができた.本稿が,研究のための勉強スタイルに迷っている若手研究者の一助となれば幸いである.

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