ハーバードでも通用した 研究者のための英語コミュニケーション

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本連載が大幅加筆して単行本『ハーバードでも通用した 研究者の英語術』になりました!

はじめに~ひとりで学ぶ英語の心得

本を読んで一人で勉強するならば、それに適した英語コミュニケーション力にフォーカスする

このような口頭での英語コミュニケーションの体力を付けるには、強制的に英語を話すしかないような状況に一時期でも身を置くしかないのではないでしょうか。このためには英語圏へ留学するか、国内では一部の研究所や外資系企業など職場での公用語が英語という環境で働く以外に方法はないでしょう。音声(話し言葉)とイメージ(身体言語:ボディーランゲージ)を同時に双方向性に、そしてダイナミックに交換する営みである英語口頭コミュニケーションをマニュアル本や教科書で教えることはできないのです。テニスにたとえるならば、ざまざまな速度、スピン、方向性をもったボールを打ち合いながら得点する(自分のメッセージを伝える)技術を、本を読むだけでは習得できないことと同じなのです。したがって、口頭での英語のコミュニケーションの向上のために、この文章を読んでいる人には申し訳ないのですが、あなたの望むものはここにはありません。しかし、悲観する必要はありません。本を読んで効率的に一人でも学べ、さらに今後ますます重要になる英語のコミュニケーションの形態があるのです。口頭で英語のコミュニケーションが重要なことに変わりはありませんが、 時間やリソースの制約上、本を読んで一人で英語を勉強するというスタイルが主流となる大部分の日本で暮らす研究者や研究者をめざす学生や大学院生の方々は、独学で本を読んで向上を指すことができる英語コミュニケーション能力、すなわちライティング(文章でのコミュニケーション)の向上に力を注いでみてはいかがでしょうか、というのが本連載の趣旨です。

これからは文書での英語のコミュニケーションが重要になってくる

グローバリゼーションとインターネットの興隆により、英語はますます“地球規模の公用言語”としての地位を固めつつあります。研究者が英語でのコミュニケーションなしにできる仕事は一部の限られたロープロフィール(Low profile)なもののみになっていくでしょう。確かに英語によるコミュニケーションの重要性は仕事上ますます重要になりますが、どういうタイプの英語によるコミュニケーションが日本にいる研究者にとって重要になるかのを考えてみる必要があります。 すでに“英語ができ国際的に活躍している一部の研究者”を除けば(そんな人はこの連載を読む必要がないので)、実践的な口頭での英語コミュニケーションに参加するトータルの時間はかぎられています。私が大学院生であったときを例にとれば、年に1回国際学会に参加したり、数回海外からのゲストとセミナーのあとに個人的に英語で会話する程度でしたので、実践的に口頭での英語コミュニケーションに従事するのは年間数回、時間ではトータル10時間以下でした。つまり、実際の〔実践的な〕口頭英語コミュニケーションで重要なことを話す時間は月に1時間以下ということになります(もちろん英会話教室の時間は実践的でもないし、重要なことも話していないので、この範疇には含まれません)。「グローバル化」とは英語でのコミュニケーションの機会の増加を意味しますが、これは必ずしも口頭で英語のコミュニケーションの機会の増加を意味しません。英会話を学ぶ理由の上位にくるものに「街で外人に英語で道を訊かれたときに、ちゃんと答えるようになりたい」というのがありますが、「グローバル化」が必ずしも「街で英語で道を訊く外国人」を増やすわけではありません。「グローバル化」がもたらすものは、インターネットや電子メールをとおした英語の書き言葉でのコミュニケーションの機会の著しい増加なのです。日本国内で「グローバル化」の恩恵を受けているかぎり、最初の「グローバルな」コミュニケーションは、街で英語で話しかけられたり 、突然英語の電話がかかってきたりかけたりすることよりも、電子メールで英語のやりとりすることである可能性のほうがはるかに高いのです。「グローバル」なジョブサーチやグラント申請にしても、最初の一歩はまず文書での英語のコミュニケーションなのです。今後は英語で書き、英語で発信するというライティングでのコミュニケーションが非常に重要になってくると考えられます。

日本をベースに仕事をするならばまず文章による英語のコミュニケーションにプライオリティーを置くのが効率的

このようにグローバル化により、研究者を取り巻く仕事の環境が大きく変化し、ライティングでのコミュニケーションの重要度が劇的に大きくなってきた状況をふまえて、英語学習の方向性とプライオリティーを修正する必要性がでてきました。英語学習にかける時間と費用が無限にある場合には話すこと、読むこと、書くことといろいろなことを十分に時間をかけて勉強できるでしょう。しかし、小学校から今まで少なくとも私にはそのような状況は訪れませんでした。人生は英語を勉強するためだけのものではなかったからです。そしてこれからも人生の貴重は時間は英語を勉強するためだけのものではないのです。英語でのコミュニケーションをとおして達成すべきものこそが重要であり、英語でコミュニケーションするのは目的達成のためのメッセージ発信と国境を越えた相互理解のための主要な手段の一つなのです。

以上のようなことを踏まえて、この連載でジョー(Joe)と私は、研究者が限られた時間で一人で効率的に身につけることのできる文章による英語コミュニケーションにフォーカスすることを提唱します。文章による英語コミュニケーションスキルを磨けば、自ずと口頭でのコミュニケーションスキルを磨く機会を与えられるようになるはずです。この連載では、アブストラクトやeメールの書き方、プレゼンテーションの準備、CVなど、研究者が直面する様々なコミュニケーションの場面で使える英語と、スキルの磨き方について紹介していきます。

次回は、読む者の興味をかき立てる正しいアブストラクトの書き方を解説します。

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プロフィール

島岡先生 写真
島岡 要(Motomu Shimaoka)
大阪大学卒業後10年余り麻酔・集中治療部医師として敗血症の治療に従事.Harvard大学への留学を期に,非常に迷った末に臨床医より基礎研究者に転身.Mid-life Crisisと厄年の影響をうけて,Harvard Extension Schoolで研究者のキャリアパスについて学ぶ.現在はPIとしてNIHよりグラントを得て独立したラボを運営する.専門は細胞接着と炎症.
ブログ:「ハーバード大学医学部留学・独立日記」A Roadmap to Professional Scientist
過去の連載:プロフェッショナル根性論 online supplement material

Photo: Liza Green (Harvard Focus)

ジョー先生 写真
ジョー・ムーア(Joseph Moore)
1999年から2004年までハーバード大学医学部のフォンアンドリアン教授のオフィスマネージャーとして,グラントの編集とポスドクと学生のための論文や申請書の作成と編集に関わる.
現在,フリーのライター兼エディターとして,International Piano and Classic Record Review等にクラシック音楽に関する記事の執筆,サイエンスの分野ではグラント申請,論文作成,プレゼンテーションの英文校正や編集を行っている.
ウェブサイト:http://www.bandoneoneditingservices.com/

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