ハーバードでも通用した 研究者のための英語コミュニケーション

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本連載が大幅加筆して単行本『ハーバードでも通用した 研究者の英語術』になりました!

本連載の主旨・概要は「はじめに~ひとりで学ぶ英語の心得」をご覧下さい

第1回 アブストラクトの書き方①
~どうしてアブストラクトのトレーニングが重要なのか?

アブストラクトを書く力は英語ライティング・コミュニケーションの基礎

研究者のための英語コミュニケーション連載の最初を飾る第1回では,あなたのメッセージを限られた字数内で余すことなく伝え,読む者の興味をかき立てる正しいアブストラクトの書き方を解説します.独学できるライティングのトレーニングには英語で日記をつけたり,海外の知り合いと英語の文通をするなどの古典的なものがあります.最近では英語ブログをつけることなどが挙げられるでしょう.基本的には長期間続けることができればいずれの方法もそれなりの効果は期待できるでしょう.しかし,研究者が仕事で使う英語ライティングの力を磨くのであれば,アブストラクトを書くということが,最も効果的で最も重要なトレーニングであると私は考えます.

アブストラクト・ライティングは,狭義には論文の本文の要約を書くという論文を完成させるうえでの最終のプロセスであるとも考えられますが,ここでは自分の言うべきことを短くまとめて英語で表現する技術の基礎として,アブストラクトを単独で書くことを練習します.アブストラクトを単独で書く技術は,直接的には学会の抄録を書くことや,グラント申請のためのLOI(Letter of Intent)の作成時に役立つでしょう.そして,さらにこのスキルは英語電子メール,CV,各種レターなどこの連載でカバーするすべての英語ライティングのコミュニケーションにおいて,伝えるべきことの要点を短く・わかりやすくまとめるうえで是非とも必要となるものなのです.このように,わたしはアブストラクトを書く技術を,研究者が学ぶべき汎用性のあるコミュニケーション・スキルと位置づけます.これが,アブストラクトの書き方を,連載の最初で紹介する理由です.

ところで,どんなトピックについてのアブストラクトを書くのかと質問する方がいるでしょう.ある程度まとまった自分のデータがある方は自分の研究内容ついて,研究を始めたばかりの方は自分の研究計画や仮説について,まだ具体的なプロジェクトを始めていないひとは自分のやりたいことややるかもしれないことについて書けばよいでしょう.だれにでもアブストラクトを書くべき“ネタ”はあるはずです.

研究者の仕事の成果はアブストラクトとして世界に伝わる

さらにもう1つ研究者がアブストラクトの書き方に精通しなくてはならない理由があります.アブストラクトはそれ単独で読まれた場合には論文本編の要点を伝え,同時に本編と共に読まれた場合には本編へのよきガイドなるという2つの機能をもっているはずです.ここで注目すべきことは,近年の検索エンジンの進歩により,前者の機能がますます重要になってきているということです.少し誇張していえば,研究者の人生はアブストラクトとして消費される運命にあるのです.科学研究の世界はますますコンペティティブになっています.数多くの人が限られたリソースやポストを賭けてしのぎを削り,選別する側も非常に大量の申請書や投稿論文を限られた時間で評価しなければなりません.数十ページにおよぶあなたの研究成果や数年以上のあなたの研究業績,または数ヶ月をかけて書いた研究申請も,まず第一段階はタイトルとアブストラクトとして数秒から数分間の間に,レビュアーという他人の目による“ざっくり”とした評価・選別を受けるのです.

読者はキーワード検索してタイトルとアブストラクトで論文を読む

連載イラスト

さらに,あなたの研究成果がめでたくアクセプトされたあとは,アブストラクトはさらに重要になるのです.出版されたあなたの論文が読者にどのようにして読まれるかを考えてみましょう.大抵の読者はあなたの仕事をアブストラクトを読んだだけで,おおよそ理解したことにし,本編を読むことは永遠にないのです.自分の論文はサイエンス・コミュニティーにおいて99%に近い確率で,タイトル+アブストラクトとしてのみ消費されることを覚悟する必要があるのです.

本連載では,まず投稿論文用のアブストラクトの書き方をモデルとして,自分の研究内容を限られら字数内で適切に,ロジカルに,そして魅力的に1つのストーリーとして1パラグラフにまとめ上げるスキルを解説していきます.自分の伝えたいメッセージを,短くまとめてストーリーにすることはコミュニケーションの本質です.ここでは投稿論文を代表例としてトレーニングのモデルに使用しますが,ここで学んだアブストラクトの書き方の原則は,投稿論文だけでなくすべての英語ライティングに応用することができます.

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プロフィール

島岡先生 写真
島岡 要(Motomu Shimaoka)
大阪大学卒業後10年余り麻酔・集中治療部医師として敗血症の治療に従事.Harvard大学への留学を期に,非常に迷った末に臨床医より基礎研究者に転身.Mid-life Crisisと厄年の影響をうけて,Harvard Extension Schoolで研究者のキャリアパスについて学ぶ.現在はPIとしてNIHよりグラントを得て独立したラボを運営する.専門は細胞接着と炎症.
ブログ:「ハーバード大学医学部留学・独立日記」A Roadmap to Professional Scientist
過去の連載:プロフェッショナル根性論 online supplement material

Photo: Liza Green (Harvard Focus)

ジョー先生 写真
ジョー・ムーア(Joseph Moore)
1999年から2004年までハーバード大学医学部のフォンアンドリアン教授のオフィスマネージャーとして,グラントの編集とポスドクと学生のための論文や申請書の作成と編集に関わる.
現在,フリーのライター兼エディターとして,International Piano and Classic Record Review等にクラシック音楽に関する記事の執筆,サイエンスの分野ではグラント申請,論文作成,プレゼンテーションの英文校正や編集を行っている.
ウェブサイト:http://www.bandoneoneditingservices.com/

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